代表者研究経歴

周期分極反転構造を用いた2次高調波発生素子に関する研究

非線形光学結晶材料であるニオブ酸リチウム結晶に対して、電子線を照射することによる局所的な分極反転方法を発見し、常温においても分極反転が可能なことを示した。分極反転構造を周期的に配置することにより、結晶への入射波(基本波)とその2次高調波の進む速度を擬似的に一致させる擬似位相整合を実現する結晶構造を作製し2次高調波発生素子を作製した。分極反転方法および周期分極反転構造を有する光学結晶について広範囲に特許を取得した。

論文:Electronics Letters, 9th May, Vol. 27, No. 10, pp. 828-829 (1991).

特許:周期分局反転を有するLiNbxTa(1-x)O3 (0x1)結晶 (公告登録番号: 03109109)

その他関連特許(日本成立特許 3件、US成立特許 2件、EU成立特許 10)

 SIL(Solid Immersion Lens)を用いたニアフィールド光記録に関する研究

 一般対物レンズと組み合わせることによりNA>1以上を実現するSIL(Solid Immersion Lens)と回転する光記録媒体とをオプティカルコンタクトとみなせる距離(20nm以下)に安定に近接させる光ディスクシステムを完成させた。具体的には、SILの光路以外の部分をフォトリソグラフィーと微細加工プロセス(イオンミリング)により加工しΦ20mmの凸形状を形成し、その凸形状の突起の周囲に配置した電極と光記録媒体との静電容量が一定になるような制御を行うことにより、回転する光記録媒体に面ブレがある場合においても安定にオプティカルコンタクトを得られるシステムを作製した。光記録媒体においては、相変化材料よりなる記録媒体を記録時の昇温による局所ストレスによる膜ダメージを保護する機能を有しながら記録媒体からの再生信号の光量が最大となる誘電体多層膜を配置することにより、ニアフィールド光記録に対応した記録媒体を開発した。結果として赤色半導体レーザ光源を有するNA1.36のニアフィールド光記録再生システムにより、回転する光記録媒体への信号の記録再生を世界発で成功させた。また、青色半導体レーザ光源を有するNA1.5のニアフィールド光記録再生システムを用いて、2000年当時における最高密度である50Gbit/in2の記録密度の信号の記録再生に成功した。

この光ディスクシステムをハードディスクのフライングヘッドに搭載することを想定し、半導体製法のドライエッチング製法であるRIE (Reactive Ion Etching)による対物レンズ作製を検討した。その結果、有効径が約0.2mmで低収差の光学レンズを作製することができ、光ディスクシステムの再生により光学性能を確認した。

光ディスクシステムの光源波長の短波長化と対物レンズの高NA化は、波長405nmのレーザ光源とNA0.85の対物レンズで記録再生を行うBlu-ray光ディスクシステムも含めて、CDおよびDVDの光ディスク作製装置(ディスクマスタリング装置)のピット形成に用いられている光源とほぼ同等の光学特性を有しているので、Blu-ray光ディスクシステムのマスタリング装置には大きなブレークスルーが必要であった。そこで、半導体レーザを光源とし記録原理を熱とした光ディスクマスタリング装置の提案・導入を行った。

 学会発表:Technical Digest of ISOM/ODS'99, Koloa, Hawaii, pp. 355-357 (1999)など

 論文:Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 41, Part 1, No. 3B, pp. 1894-1897 (2002)など

表彰:映像情報メディア学会・藤尾フロンティア賞(9回・平成12年度)など

特許:JP04240661US 7058000 B2など。

SIMOX法による光導波路技術ならびに、光電気集積回路用シリコン基板に関する研究UCLA Bahram Jalali研究室との協業を含む)

 

 これらの研究は、2002年~2003年に企業派遣留学生としてカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)Bahram Jalali研究室に1年間客員研究員として滞在した際の研究、および帰国後に日本で行った実用化研究である。UCLA滞在中においては、SIMOX法のイオン注入工程において酸素イオンを透過するマスクを介してイオン注入することとアニール時に酸素を遮断することにより、表面の直下に低導波損失の埋め込み光導波路を形成するプロセスを発明した。UCLAと連名で特許を取得するとともに、学会発表・論文化を行った。論文はNature Materialsにリファーされ、UCLAでは木島の帰国後に光導波路の上部表面のシリコン部分にトランジスタ回路を形成し、光回路と電気回路とか厚さ方向に積み重ねられた光電気集積回路をデモンストレーションした。その後日本にて、この光導波路製法の実用化研究として8インチSOI基板および12インチSOI基板を用いて埋め込み光導波路を有する基板の高品質化を検討し、2011年時点でのITRSロードマップにおいて十分に低欠陥密度であると定義された1.0×104/cm2を下回る7.5×102/cm2の欠陥密度で埋め込み光導波路を有するシリコン基板を作製した。

SIMOX ( Separation by IMplantation of Oxygen ): シリコン基板に酸素をイオン注入し1300℃以上の高温アニールを行うことにより、イオン注入時のダメージによりアモルファス化した表面シリコンの再結晶化とイオン注入した部分のSiO2化を行う技術(通常はパターニングを伴わず、SOI基板の製法に用いられる。)

論文:Applied Physics Letters, Vol. 83, No. 24, pp. 4909-4911 (2003)など

特許:US 7368359 B2など

CMOSトランジスタによる近赤外光(波長:1.55um)用光メモリ(受光センサー)に関する研究UCLA Bahram Jalali研究室との協業)

SOI基板に形成されるNPNSOIトランジスタのボディ部分に波長:1.55mmの光が入射した場合において、2光子吸収現象により発生したキャリアのうち移動度が遅いホールがボディ部分に残留し、トランジスタの動作時に基板浮遊効果を生成するというモデルを考案した。このモデルを、ボディへの光照射と基板浮遊効果との関係を3次元半導体デバイスシミュレータであるAthenaにより解析・検証した。その結果、シリコン基板に形成される光電気集積回路に適用する光受光素子あるいは、光信号をシリコン基板上に記録するメモリー素子として使用可能であることを見出した。

代表文献:IEICE Electronics Express (ELEX), Vol. 7, No. 24, pp. 1790-1795 (2010)

蛍光顕微鏡において注目輝点の3次元位置を高効率で特定する技術についての研究

蛍光顕微鏡で試料を撮影する際に、試料ステージを3次元的に連動させながら撮影することにより、試料中の蛍光輝点の位置を高効率に特定する方法を提案・検証した。撮影中に試料ステージを移動された撮影画像はボケた像であるが、試料ステージの移動情報は既知であるので像のボケ情報を解析することにより、被撮影体の3次元位置を特定することができる。3次元位置の特定方法は、フーリエ光学から計算した画像とのマッチングアルゴリズムにより自動化を可能とした。膀胱がん検出用蛍光試薬により染色したヒト細胞株の細胞における3番染色体と7番染色体の距離測定にこの方法を試行することにより、この方法の蛍光遺伝子染色試料への適用が可能であることを確認した。また、同一高さに配置された複数色の輝点(蛍光ビーズ)がある試料を、マルチバンドフィルターとカラー撮像素子と組み合わせて撮影することにより顕微鏡対物レンズの色収差を1回の撮影工程で行うことを可能にした。

論文:Applied Optics, Vol. 50, No. 25, pp. 4989-4997 (2011)